アキザキヤツシロラン

アキザキヤツシロランとは、暗い深緑色をした花を1つの花径に多数咲かせる、地上部の背丈が約10cmのラン科植物です。地味な色と小さな姿は、主な自生地である竹林の地面に同化しやすく目立ちません。

花弁と萼片は基部で合着しており、花は物理的に全開できません。唇弁には毛がなく、ハエがやってくると受粉を成功させるために唇弁を上下運動して一時的に閉じ込めます。

光合成をしないため葉が退化した膜質の鱗片葉が存在します。花を咲かせる時期になると、光を感じるまで地中から地上へ花径を伸ばします。クロヤツシロランと姿が似ていますが、開花時期が僅かに遅れます。開花期間は3日くらいと短く、結実後に背丈が伸びて遠くに種子を散布するのは同じで、果実の姿では、クロヤツシロランとの区別はつきにくいです。

整備されずに放置された竹林の、朽ちた竹が存在する場所でしか見かけることはなく、遭遇しにくいです。塊茎を地下部に持っていますが、毎年同じ場所に出現するとは限りません。

基本情報

和名:漢字
秋咲八代蘭
学名
Gastrodia confusa
分類:目
キジカクシ目 Asparagales
分類:科
ラン科 Orchidaceae
分類:属
オニノヤガラ属 Gastrodia
分類:種
アキザキヤツシロラン G. confusa Honda et Tuyama
花期
9月末~10月初旬
赤リスト
環境省カテゴリ:なし
東京都:絶滅危惧IA類(CR)
分布
関東~九州
分布地
高麗山, 秦野市
その他

詳細情報

中国語では「八代天麻」と呼ばれています。クロヤツシロランと一緒に見かけることもあります。翡翠色の花を咲かせるヒスイアキザキヤツシロランという品種が存在します。
1枚の背咢片と2枚の側花弁、そして2枚の側咢片が合着した筒状の花の中には、唇弁や葯、蕊柱があるのが見えます。怪獣の口や鳥の嘴を連想させる姿です。
蕾から開花が終わるまでの期間が短く、1つの自生地における見頃は一週間ほどです。
アキザキヤツシロラン
唇弁が下がっている時
アキザキヤツシロラン
唇弁が上がっている時
唇弁は短時間で上下しています。
アキザキヤツシロラン
1個体に9個の花が付く
アキザキヤツシロラン
神奈川県(10月28日)
アキザキヤツシロラン
蕾を形成途中
クロヤツシロランと比べて背丈があり、少しは見つけやすいですが、頭上からだとどこにアキザキヤツシロランがあるのか分かりにくいです。自生地はたいてい蚊や蜘蛛などの虫が多くいます。
蕾(9月20日)
開花した状態(9月23日)
アキザキヤツシロランの果実
果実(9月23日)
クロヤツシロランと同様に、腐生菌(共生菌)から栄養を奪っており、ミヤマサクラタケと呼ばれるクヌギタケ属の菌であると分かっています。果実はそっくりで、種子散布のために急激に伸ばした背丈も同様のため、クロヤツシロランと見分けるには、蕾か開花の時が簡単です。
色の濃さは個体差があります。
群生
ヤツシロランはどれも腐生植物(正式には菌従属栄養植物)です。根系に菌根を形成し、土壌にいる菌に寄生して栄養を一方的に奪っています。そのため、環境が変わると生きていけません。
アキザキヤツシロランのに産み付けられたハエの卵
花の中にハエの卵
アキザキヤツシロランの群生
ショウジョウバエの頭に花粉
花の中に産み付けられたハエの卵は孵化した後、ハエの幼虫は花を食べながら育ちます。
アキザキヤツシロランの群生地
アキザキヤツシロランの群生地です。多くの人に知られた有名な自生地では多くの花観察者が訪れ、地面が踏み固められることによって、年々個体数が減っていきます。
ライトで照らした姿。
怪獣のような見た目です。
クロヤツシロラン
開花時の背丈や花の形が異なります。
開花した後の果実の姿。
似たような植物として、ムニンヤツシロランやヒスイアキザキヤツシロラン、ハルザキヤツシロランなどがあります。他に屋久島の椨川に分布するタブガワヤツシロラン、奄美大島のアマミヤツシロラン、竹島のタケシマヤツシロランなど、地域性による違いがあるヤツシロランが未発見を含め数多く存在します。